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 油と健康 


●体に良いあぶらと、良くないあぶら

○ あぶらの摂りすぎは健康を損なう

 「あぶら」すなわち脂肪は、炭水化物(糖質)、タンパク質とともに、3大栄養素の1つです。活動するためのエネルギー源となるほか、細胞膜やホルモン、胆汁を作る材料となり、さらに皮膚に潤いを与えるなど、いろいろな働きをしています。皮下に貯えられた脂肪は、いざというときのエネルギー源ですし、体のクッションや保温のためにも役立っています。
 このように、私たちの健康にとってとても大切な油ですが、摂り方を間違えると、肥満をまねいたり動脈硬化をすすめ、健康を損なう原因にもなります。欧米人に狭心症や心筋梗塞が多いのは、肉類やバターなどをどっさり食べ、動物脂肪をたくさん摂るからだと言われます。その結果、血液中のコレステロールが増え、それが血管の壁にたまって動脈硬化を進行させて、狭心症や心筋梗塞、脳卒中を引きおこすのです。近年、我が国でも心筋梗塞や脳梗塞で亡くなる人が増えていますが、その重要な原因として動物脂肪の摂りすぎが指摘されています。また、日本人に増えている、肺ガン、大腸ガン、乳ガンも、脂肪の摂取の多い人に多発するという報告もあります。しかし、あぶらも種類によっては動脈硬化を予防する作用のものもあり、上手な摂り方をすれば、健康な長寿に役立てることができます。


○ リノール酸の摂りすぎも害になる

 その動脈硬化を予防するのに、植物油を十分に摂るのがいいと言われてきました。植物油に多く含まれるリノール酸に、血液中のコレステロールを減らし、動脈硬化を予防する作用があるからです。ところが、最近になって、このリノール酸が成人病を増やす一因にもなっていると言われはじめました。リノール酸は確かに血液中のコレステロールを下げる作用がありますが、摂りすぎると今度は、血液を固まりやすくして、そのためにできる血栓が心筋梗塞や脳梗塞の一因になっているというのです。さらに、これを多く摂っていると、大腸ガンや乳ガンが発生しやすいことが、動物実験で示されました。一方、魚の油に多く含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)が、健康に役立つ油として注目されるようになりました。これにはリノール酸と同じように血中コレステロール値を下げるとともに、血栓をできにくくする作用があり、心筋梗塞や脳卒中の予防に役立つというのです。また、大腸ガンや乳ガンの発生を予防する作用があるという実験結果も出されています。
 また、魚を食べると頭がよくなると言われ、話題になりました。魚の油に含まれるDHAは、動物の脳細胞に大切な成分であって、これが不足したネズミは、知能の働きがにぶるという動物実験の結果が出たからです。とは言っても、われわれ日本人がふつうに食事をしていれば、DHAが不足することはなく、魚をたくさん食べてもこれ以上頭がよくなるかどうかは疑問です。ただ、動物実験で年をとったネズミにDHAをたくさん与えておくと、知能の低下が起こりにくいことがわかっていて、人間の場合もボケ予防にはDHAが有効ではないかと期待されています。


○ 上手な油の摂り方

 このようにお話をすると、動物脂肪やリノール酸の多い植物油は悪者で、魚の油をどっさり摂るのがいいと思われるかも知れません。しかし、それは間違いです。動物脂肪にしても植物油にしても、私たちにとって必要不可欠な成分なのですから、不足してはいけません。適量摂っている分には、害になることはないのです。
 では、脂肪の摂り方は、どのようにすればいいのでしょうか。まず、動物脂肪の摂りすぎは肉類やバターをどっさり食べるために起こります。現在、日本人の1日1人当たりの肉を食べる量は約75gですが、これくらいが適当。多くても100g以内にとどめておけば、動物脂肪の摂りすぎになることはありません。200gのジャンボハンバーグとか、半ポンドステーキ(約230g)を食べては、摂りすぎになります。そして、EPAやDHAを含んでいる魚を1日に100gくらいは摂るようにしましょう。植物油は20-30g。もっと実際的に言うなら、ご飯を主食にして、肉のおかずと魚のおかずを1日おきに、交互に摂るようにすればいいのです。そして、揚げ物や炒め物、ドレッシングなどには植物油(サラダ油)を使いましょう。そして、野菜類をどっさり摂るようにすると、油の摂りすぎの害を防ぐことができます。

著者:コハシ文春ビル診療所 院長 小橋隆一郎



●油を食べないと長生きできない?

油のカロリーは921〜941kcal(100g当たり)と高めですが、カロリーが高いからといって油を食べないとどうなるでしょうか。油の摂取量が少ないと血液中に必要なコレステロールが不足し、血管のしなやかさが失われてしまいます。その結果、血管はもろくなり、切れやすくなります。昔の日本人が若くして脳卒中で亡くなる方が多かったのはこの所為です。また、必要な栄養素の中には例えばビタミンEなど水には溶けず油にしか溶けないものが多くあります。これらは油の中に含まれていたり、油で調理することで体内に取り込めることができるようになります。とくに、胡麻油に含まれているセサミンなど油の中には血液中の活性酸素を抑制し、老化防止や癌の増殖を防ぐ役割を果たしている天然の抗酸化成分や血液中のコレステロールを取り除くステロールなどの大切な成分が含まれています。
油の摂取と死亡率との関係から見ても長生きの条件のひとつとして1週間に4回以上油料理を食べる人と、それ未満の人では男性で約3%、女性で約10%、油料理を多く食べている人の方が長生きしているという研究結果も出ています。(東京都老人総合研究所 小金井市70歳老人の総合健康調査)


●油の望ましい摂取量とはどのくらい?

だからといってむやみやたらに取ったらどうでしょうか。栄養の取りすぎは体によくないのと同じで、油を取りすぎるとカロリーが高いだけに太ってきます。特に、動物性の脂の取りすぎは血液中の悪玉コレステロール(LDL)を増やしてしまい、血液がドロドロとなり血管が詰まってしまいます。その結果、心臓病や脳梗塞となり命に関わる病気となってしまいます。では、望ましい油の摂取量とはどのくらいでしょうか。
アメリカをはじめ、多くの先進国では油の摂取量の目標とする脂質のエネルギー比率を全食事エネルギーの30%前後としています。欧米人の食事が肉食を主体としているために高めの指標となっています。では、日本ではどうかといいますと厚生省が平成6年に発表した「第五次改定日本人の栄養所要量」がその指標として58g(1人1日当たり)としています。全食事エネルギーの20〜25%を脂質から取るエネルギーの割合としています。


●油の取り方もバランスが大切?

油にはそれぞれ飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸がある割合で含まれています。
不飽和脂肪酸としてはリノール酸(n−6系脂肪酸)、一価不飽和脂肪酸としてはオレイン酸(n−9系脂肪酸)、多価不飽和脂肪酸としてはリノレン酸(n−3系脂肪酸)が代表的な脂肪酸です。特に、リノール酸とリノレン酸は人間の体内では合成できない必須脂肪酸とよばれ、食事などから摂取する必要があります。
これらの脂肪酸をバランスよく摂取することが大切です。特に、平成13年に発表された「第六次日本人の栄養所要量」では不飽和脂肪酸であるリノール酸(n−6系脂肪酸)と多価不飽和脂肪酸であるリノレン酸(n−3系脂肪酸)を4:1の比率で摂取するように指導されています。マグロや青身魚に多く含まれているDHA/EPAもn−3系脂肪酸の仲間です。
血管をしなやかにし血液中の悪玉コレステロール(LDL)を減らすオレイン酸、代謝を促進するリノール酸、血液をサラサラにするリノレン酸をバランスよく摂取することが大切です。


●目に見えない油?

食用油の大豆や菜種、牛や豚などの動物から作られています。胡麻油、オリーブ油やバターなど油として目に見えるだけではなく、当然に豆類や穀物類、肉や魚などの中にも油があります。見えない油は実に全油の摂取量の73%を占めています。これらの目に見えない油も含めてバランスよく油を摂取することが大切です。

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